高瀬五郎氏
このブログにおいて、尊敬してやまない田山幸憲氏について何度か書いてきたが、今回はもう一人尊敬する人物について書かせて頂きたい。
その人物の名は、高瀬五郎氏。おそらく知っている人は極めて少ないであろう。この人のことを、私は心の中で先生と呼んでいる。
出会いは今から約10年前。まだ学生だった私は、法律を無視して大井競馬場へ足繁く通っていた。当然のように負ける日々が続いていたある日、一人の予想屋の前で足を止めた。群衆の中に入り、その予想屋の言葉に耳を傾けた。
その予想屋こそ、私が尊敬してやまない高瀬五郎氏である。その口調は優しさとユーモアに溢れ、60代の渋さがとても格好良かった。雨の日も雪の日も、あの語り口調が聞きたくて、何度も何度も競馬場へと足を向けた。
その後、私は専門学校の社会人向け講座の常勤講師をすることになったのだが、人前で喋る技術の根底は高瀬さんから教えて頂いたと思っている。
あれから10年、私も年を取り、仕事に追われる日々を過ごし、いつしか大井競馬場から遠ざかっていた。そんなある日、
『明日、大井競馬場に行くんですけど、一緒にいかがですか?』
前職の同僚からのメールだった。ちょうど仕事も一段落したところだったため、久しぶりに大井競馬場へとやってきた。
高瀬さんがいるであろうブースに向かってみると、見覚えのない顔の予想屋が並んでいた。
場所が変わったのかもしれない。しばらく場内を歩いていると、よかった、向こうに高瀬さんの弟子であるシゲさんの姿が見えた。
『お久しぶりです!』
声をかけると、一瞬とまどった表情をされていたが、すぐに思い出してくれた。予想屋に通い詰める若造は少ないので、覚えていてくれたようだ。
『久しぶりだね~。競馬やめて真面目に働いてるの?』
笑顔で皮肉たっぷりに言われてしまった。しばし昔話に花を咲かせていたのだが、悲しみは突然やってきた。
『今年の1月に、先生亡くなったんだよ…。』
言葉が出なかった。あの語りべを二度と聞けない悲しさ。永いこと会いに来なかった自分への後悔。先生の笑顔が走馬灯のように浮かんでは消え、涙を堪えるので必死だった。
出会いがあれば、別れもある。悲しいことに変わりはないが、出会えたことを幸せに感じよう。
先生は私にとってヒーローだった。一日に三度の万馬券をすべて的中させても、
『これが仕事ですから。』
と謙遜されていた笑顔が懐かしい。
本日、万馬券を的中することができたのだが、きっと天国の先生が当てさせてくれたに違いない。
またここに来よう。ここに来れば、また先生に会えそうな気がする。私の心の中で、高瀬五郎さんは生き続けるであろう。
先生、競馬の難しさと面白さを教えてくれてありがとう。そして、たくさんの思い出をありがとう。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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